何故MSではなくMWを選んだのか

今年の前半までは、Court of Master Sommeliers(MS)のマスター・ソムリエ資格を受験する比較的若いグループに所属し、週一度の目隠し試飲に参加しておりました。私自身はマスター・オブ・ワイン(MW)を目指しておりますが、Courtのソムリエ資格も持っており、食の中心のSFには、ソムリエ資格を目指す人が比較的多く、MS受験グループのほうが比較的見つけ易い訳です。

とはいえ、この秋晴れてInstitute of Masters of Wineの正式通知を受け、MWの受験一年生となりました。そのつてで、やっとSF近郊でMWを目指す人をみつけ(米国でMWを目指す人はMSに比べると、希少)週に一度集まってMW方式の試飲練習会を開いています。

自宅での試飲セットアップ

(自宅で目隠し試飲のセットアップ)

マスター・ソムリエとマスター・オブ・ワインの試験は、かなり趣が異なります。それは、レストランで給仕をするソムリエという仕事柄、ブラインド(目隠し)試飲の試験も、いわゆる短い理論といわれる試験も、全て口頭で行います。試験に出されるワインは、「クラシック」で「典型的(ベンチマーク)」と評されるものが主で、例えばカベルネなら、ナパやボルドーの新樽を使ったどっしりしたものであるとか、ソービニョン・ブランであれば、樽を使わずフレッシュに仕上げたロワールのサンセールやニュージー・ランドのマールボローといった具合。試飲試験では、ワインの香りや味を表現する的確な力や、ワインの種類を当てることに重きを置いているきらいがあります。それは、お客様にワインを売るという仕事柄、当然の流れと言えるでしょう。

反して、ワインメーカーや、アカデミックなバックグラウンドをもつ業界人が主な受験生であるマスター・オブ・ワインの試験は、全て論文形式の筆記試験。目隠し試飲は、12種類のワインを3日間にわたって(理論は4日間)おこなわれますが、出題されるワインは典型的なワインばかりではなく、普通の人はあまり飲んだことの無い品種や国のもの、或は同じカベルネでもアルゼンチンやニュージー・ランドの新興国のものが混ざります。これを試飲した上で、どんな製法で作られたワインか、どこの国のどの品種のワインか、そしてその質と市場価値などを、論理的に、そして飽くまで目の前のグラスから得た情報だけを頼りに、理論展開して行きます。

そんな訳で、一回の勉強会にはかなり時間をとられます。スピードを重んじるソムリエの勉強会は、一つのワインに4分が目処の(その場で飲みながら答える)タイムリミット方式で、そのあと出席者の討論が5分程、計10分から15分あれば次のワインにすすめます。翻ってMWの勉強会は、まず12種類のワインを各自が試飲しながら、きちんと文章に落とします。このタイムリミットが2時間15分。その後、参加者で分析と討論を行うので、最低3時間半はかかり、大変な時間(と経費、毎回12本の違うワインを用意する)をコミットせねばなりません。

しかも対象となるワインは、赤白ロゼの他に、スパークリング・ワインとデザート・ワイン( ポルト、シェリー、マデラの酒精強化酒に、ソーテルネ、トカイなどの貴腐ワインなど)という守備範囲の広さ。一人で勉強するのは、ほぼ不可能です。ですから、何年(或は十何年)もかかるMSやMW受験には「同士(study buddy)」の存在は不可欠。ドキュメンタリー映画のソムSomm(ソムリエの略称で、MSを目指す人達が受験するまでのグループを追ったもの)がまさにその受験過程を追っていますが、スタディグループは全員が合格するまで、何年でも励まし合って、切磋琢磨を続けていくというシステムです。

私が最初に取ったワインの資格は、 ソムリエ。受験の前日に先生(マスター・ソムリエ)に言われた言葉が、今でも忘れられません。

「試験なんで、落ちることもあれば、受かることもある。だから、不合格でどんなに落ち込んでいても、友人(study buddy)の合格をきちんと笑顔で祝ってあげる!大切なことは、『いつ』受かるかではなくて、いつか『受かる』ことさ。」(下はソムリエの資格試験を司るマスターソムリエ教授陣)

ソムリエスクールの教授陣MS

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