ワインライターの道中は危険がいっぱい

ワインライターという仕事柄、単独で世界中を「放浪」している。 土地勘のない国で、住所もいい加減なワイナリーや畑を、GPSだけを頼りに探す。ヨーロッパの田舎は、丘が多くて道幅が極端に狭く、切り立った崖やら行き止まりの道にGPSが誘導することがままあり、Uターンができず立ち往生する。狭い山の一本道を登っている途中でどっぷりと日が暮れてしまい、何も見えなくなったこともある。しかも電波が通じず、電話もGPSも使えない。この時は、泣きたくなった。今回も日の暮れたイタリアの片田舎で、目の前の丘の上に町が見えているのに、どこにも車が入れそうな舗装道路がなく、焦った。しかもあぜ道で、10センチハンドルを切りそこねると、タイヤが水路の溝にはまってしまうという恐怖のおまけ付きだ。われながら、よくこんなことをやると苦笑してしまった。

 

当然、車をぶつけたり、事故ったりすることもある。米国内であれば、レンタカーをする際に、保険を購入することはない。クレジットカード会社が自動的に車両保険をかけてくれるからだ。今までは、海外でも大抵これで賄ってきたが、今回イタリアで接触事故を起こした際の手続きが面倒で、それ以降は危ない地域(治安ではない)に行く場合は、保険をかけることにした。スペインでレンタカーをした際に、「車が盗まれても、全壊しても全く賠償責任なし」という保険に入ってみた。確か35ユーロくらいだったが、ものすごく気が楽になったのを覚えている。

とはいえ、海外、特に治安が年々悪化しているヨーロッパでは、盗難がいちばんの頭痛の種だ。パリのスリはあまりにもあざやかで、私も含めて知り合いの多くが、シャルルドゴール空港から市内に入る地下鉄で、 財布やコンピューターを抜かれている。10月のヨーロッパ視察では、バルセロナで被害にあった。手口はこうだ。ホテルのロビーのそばに駐車したレンタカーに乗り込んだ瞬間、窓をノックされた。きちんとした身なりの男性が、身振り手振りで後輪を指して何か言っている。一旦車から降りてみると、右後ろのタイヤの空気が漏れているといいたいらしい。一緒にしゃがみ込んでタイヤをチェックしたら、空気入れのキャップが取れていた。それを戻していると、その男性は「では」という感じで、ゆっくりと目の前をまっすぐ離れて行った。1分後に、運転席(車の左前)に戻ると、助手席に置い田はずのバッグが無い! もう一人の相方が、どこかに隠れていて、そっとドアを開けて、盗んで行ったらしい。とはいえ、車を乗り込む際は、必ず周りを見回して、誰もいないのを確認する習慣がある。にもかかわらず、全く音も気配もしなかった。鮮やかとしか言いようがない。

しかし困った。盗まれたバッグには、パスポート、グリーンカード、運転免許証などのIDと、全財産(キャッシュ、クレジットカード)、そして携帯電話が入っていた。その瞬間から、無国籍の一文無しになったしまった。早速警察に行き、紛失届けを出した。これは必須だ。スリはキャッシュと換金性の高いグッズ(携帯やコンピューターなど)を抜いた後、残りを捨てる習慣がある。この場合、警察から連絡が入るし、不正にチャージされたお金も、ポリスレポートをカード会社に提出すれば済む。案の定、3日後に私のバッグは、最寄りのガソリンスタンドから発見され、パスポートやクレジットカードの一部は無事に返ってきた。今回、痛感したのは、アメリカンイクスプレスの素晴らしさだ。ヴィザやマスターカードなどとは比べ物にならない対応の速さときめの細かいサービスで、2日でアメリカからスペインまで新しいカードを送ってきてくれた。

最悪なのは、日本のパスポート再発行の手続きだった。 発行をするに当たって「まず日本の家族(いない場合は本邦の弁護士を雇う)が、領事館宛に戸籍抄本か謄本を『郵送』することが先決」だという。領事館がこれを受領しないと、 パスポートの発行手続きを始められないのだそうだ。この時も、さっさと国籍をアメリカに変えておくべきだったと心から後悔した。

 

とはいえ、根っからのポジ思考で、 ヨーロッパでの視察(仕事)ができなくなったと悟った瞬間に、 頭をバケーションモード切り替えた。考えたら、ここ5年ほど、純粋な休暇なんて、全くしていなかった。私を助けにキャッシュを持ってきてくれたスペイン在住の友人と、連日ディナーを楽しみ、交流を深められたのは幸いであった。感謝。

 

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