「マスター・オブ・ワインへの道」ー 執筆開始にあたって

マスター・オブ・ワイン(MW)という雲の上に存在するワインの神様のような資格が在ると知ったのは、ワインの勉強を本格的に始めてから。それまでは、マスター・ソムリエ(MS)が業界のトップだと思っていて、実際欧米で最も権威のあるCourt of Master Sommeliers(ソムリエ協会)というイギリスの機関が、世界で初めてカリフォルニアで開講した「3ヶ月ソムリエ短期集中受験コース」に入学したのでした。この前代未聞の難問コースは、通常であれば5年間の実技と理論を勉強してから受ける、ソムリエレヴェル2という資格を何と3ヶ月で受験するというもの。

生来のワイン好きが高じて、現役のニューヨーク金融時代(80年代から01年まで)には、わざわざナパヴァレーに通ったほど。9.11を機に、業界からリタイアしてから、一生涯追求してもまだ余り在る「何か」を模索していました。そして、自分の特技(語学力、コミュニケーションスキル)とパッション(ワイン、旅、食と異文化)を最大に活かせる今のキャリアーに辿り着いたわけです。

3ヶ月の受講後、ソムリエ資格2(正式なバッジを得て、ミッシェラン星付きなどの格式のあるレストランに勤めるソムリエが典型)を取得。詰め込み暗記と典型ワインの試飲一辺倒だったソムリエ受験勉強で身につけたワインの「基礎知識」に自信を得たものの、なにかしらの物足りなさを感じておりました。もっと奥行きの深い、幅広いワインの知識が欲しい、、、。ブドウ栽培からワイン醸造に到る複雑な『農芸化学』と『醸造技術』を学び、世界に広がるワイン地域の実態(ワイン法、ブドウ/ワインのカテゴリーやビジネス・プラクティスなど)を認識し、それらの 国際ワイン交易を司る仕組みを知りたい。

更には、ソムリエのトレーニングで身につけたワインの表現力だけでは、何か忘れ物をしたような気になります。例えば、そのワインの風味が「収穫したばかりのフレッシュなピンクグレープ・フルーツ」なのか、それとも「イエロー・グレープフルーツの皮の風味」なのかに心を砕いても、大して意味がないように感じたのです。

私が知りたかったのは、柑橘類の風味はどこからくるのか?そのブドウ品種独特のものなのか、気候や土壌が影響しているのか?作り手の手腕が関わってくるのか?という部分。そして、目隠し試飲をするのは、ワインや、どのブドウの名前をあてるゲームではなく、品種、地域、製造法も含めて、そのグラスの中から語りかけて来る「何か」を解析することだと思ったのです。正に、そういう全ての知識を体現する存在として、マスター・オブ・ワインに注目したのでした。

そこで早速、ロンドンのInstitute of Masters of Wine(マスターワイン本部)を訪問。いかにして「最短距離で」MWになれるのか?という図々しくも大胆な質問をしたのでした。そしてそのアドヴァイス通り、3年という短い期間で応募資格を得て、本年度(2014)のMWプログラムに受け入れられました。これから数年の間に数々の試験とチャレンジがありますが、そこに至る過程を公開することによって、MWを目指す後進のすこしでも役に立てばと願います。

公開するということは、成功だけではなく失敗談も多々ある訳で、それらも含めて一緒に経験して行って下されば、幸いです。MWという狭き門は、私の尊敬する先達をも拒否して、なかなか通過することが難しい道です。そのうちの一人で、私の先生に当たるワインメーカーが、最近「私のMWへの道は本年を持って閉ざされました」と題したメッセージをソーシャルメディア に公開しました。

「長年にわたってMWの試験を受けて来ましたが、本年が最後のチャンスでした。残念ながら期限切れとなり、私のMWへの道は閉ざされましたが、そこに至るまでに学んだ物は大きい」から始まるメッセージで、読んでいて感動しました。そこには、「失敗したから恥ずかしい」という小さな自尊心の欠片もなく、堂々とその結果を公表する。なんという大きな人間だろうと思いました。

そしてMWにしても、MSにしても「この道は一人では実現しない。皆で分け合って進むのだ」という同士の絆とでもいうスピリッツを改めて感じました。わたしも彼女のメッセージを読んで、今から始まったばかりのMWへの道のりを、皆さんとシェアーしてきます。これからMW或はMSという業界最高峰を目指す方や、資格をとらずともワインを愛し、すこしでもワインの世界の深さを学びたいという方の、ほんのすこしのお役に立てばと願います。  (2014.12.20サンフランシスコの自宅にて)

 

マスターオブワインロンドン本部

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