頭と目と鼻だけで、MW方式のブラインドができる?

テイスティングの研修を、4年振りに再開しなくてはならないのですが、味覚が既に退化しているっ:(

この4年ほど、連続的な歯科手術や内頬に突如として現れる出来物のために、口内環境が激変。加齢現象の加速化と、この40年間毎日欠かせないきつい抗ヒスタミン薬の摂取で、味覚障害に悩まされています。50代の後半で取得したワインの資格試験(ソムリエ、WSET Diplomaなど)の時は、まだ味覚は冴えていて、同い年の同級生から「ゆきのテイスティング能力は若いねー」と感心されたものでしたが、、。

人によっては40代から既に現れる味覚の退化。よくあるのは酸味や苦味をより強く感じたり、デリケートな味わいに鈍感になったり。昔 年上の友人が、「もう年だから、最近はどっしり系のボルドーはだめで、軽いブルガンディーばかり」とか、逆に「最近は果実味が強いシラーズとかグルナッシュじゃないと、ワインを飲んだ気がしない」などと言っていたのを思い出します。私に現れた現象は後者で、もともとブルガンディーよりボルドーを好んで育ちましたが、今は更にブルゴーニュに興味を失い、逆に、今まで敬遠していた「甘やか過ぎ、分かりやす過ぎ!」タイプのワイン、プリオラットやシラーズなんかを好むようになり、我ながら(友人も)唖然としております。

残念なことに、酷いアレルギー体質なので、抗ヒスタミンなどの薬を摂取しないと、息ができない、涙が止まらない、全身に湿疹がでるので、40年位以上毎日服用してきた結果、粘膜が乾燥し、口内の唾液の分泌な抑えられるので、味覚をキャッチできづらい、、。この数十年、毎日一本飲んでいたシャンパーニュが、おいしく感じられない、、、。酸味ばかりが際立って、そのデリケートな複雑味までたどり着かない。かといって、プロセッコでは「まずっ」となるし、、、。唯一、味わいに納得できるのがフランチョコールタかな?

とはいえ、テイスティングはマスターオブワインの必須科目。試験でのブラインドといっても、巷で流行っている『当てっこゲーム』と違い、目の前のグラスから、ワインの品種、生産地域、醸造手法、市場価格や価値を引き出し、その結論までの過程を、理路整然と理論展開する試験。故に、「何故このワインがXXではないのか」という類似品種との比較展開と消去法を説明するのも必須。つまりは、醸造、ブドウの出自・テロワール、品種独特のケミカルや主だった世界各地の過去20年ほどのヴィンテージといった知識が必須で、これをベースにして明快に記述展開(そう、口頭試験などではなく、筆記試験なのです)するのです。

こういう試験であればこそ、今まで積んできた膨大なワインの知識に頼れるし、あとはまだ何とか機能している目と鼻を使えば、6割くらいの正解は出るかなー?という希望的観測を抱き始めた今日この頃。香りだけで明らかにわかるブドウ品種としては、北ローヌのシラー(シラーズではない)、ソービニヨンブラン全般、ロワールのシュナンブラン、モスカト(ミュスカではなく)、アルザスのゲビュルツ、チリのカーメネールなどがあるし、理論展開としては品種特有のケミカルや、生産地域独特の品種の癖を指摘すればよいでしょう。

アローマが強い品種は、よく似た品種と間違えやすいので注意を要します。とはいえ、目で見る要素を加えて、そのうえでワインの知識を使って分析すれば、結論を導き出すことは可能。例えば、アローマが強めで、少し石油香があり、「ミネラルでフローラルの香り」(この2点は要注意。概して白ワインの製造法でかなりで抽出される香りなので、これらだけでワインを判断するのは、全く意味がありません)。目の観察では、色が白色に近い透明で、香りにミネラル感やフローラルなアローマが主体であれば、低温で、ステンレススティールで醗酵したワインだといえます。

このワインが若いというもう一つの理由は、香りが主に果実(Primary aroma)で、レモン・ライム系のシトラスやグリーンアップルとくれば、涼しい栽培地域か、温かい地域で早摘みする習慣のあるところ。ちなみに、若いワインなのに石油香がでる地域も考慮します。有名どころではハンターヴァレーのセミヨンや、北ドイツのリースリング。時には、クレアバレーなど。石油香というのは、どの地域で造ったリースリングでも、瓶熟成を3-5年以上重ねると生成されると言われています。若いリースリングなのに、石油アローマが出てしまうのは、日当たりが強く、暖かすぎる畑にリースリング植えた場合に出る「欠陥」だ、ある高名なモーゼルの醸造家が言っていたのが印象に残っています。

さて、これは若いリースリングか、それともハンターヴァレーのセミヨンか?と迷った場合に、何をテイスティングすべきかは自明の理。まず残糖分の有無を確認します。辛口であれば、ハンター、アルザス、オーストリア、オーストラリア、フィンガーレークそしてドイツが候補。次にアルコール度数をテイスティングで割り出します。9%前後であれば、ドイツ(特にモーゼル)。11%くらいであれば、ハンターのセミヨン(彼らはセミロンと発音しますが)、12%-13%はその他の可能性大。それからボディ。ドイツが一番、軽くエレガント。新世界(USA/Australia)は、こういう品種は軽快に仕上げるため早摘みしますが、それでも果実味はしっかりとあり、ボディもヨーロッパに比べると、多少重め。そして最後に酸の高低(地域差がでる)と、酸の性格を味わいます。リースリングが羽のような(特にドイツ)そしてすっと天に伸びるような酸であれば、暖かい地域のハンターのセミヨンは酸っぱく感じる(Tart)酸。プラスセミヨン特有の少しねっとりとしたボディを感じます。

とまあ、こんな具合で、「ドライテイスティング」(ワインを飲まずに、頭の中の理論を組み立てていくテイスティングのシュミレーション)をベースに、色見と香りを見ながらワインや地域、そして醸造方法などを絞り込み、最後に必要な情報を確認するためにワインを口に含みます。プロのテイスターがせいぜい一口か二口飲んだだけで、結論をだせるのはこういうメカだということです。

閑話休題。今年のJapan Wine Challengeで審査委員長をしながら感じたこと。経験の浅い審査員は、ワインをがぶ飲みし過ぎだということ。それは迷いと自信のなさの表れでしょうが、ワインのブラインドは、第一印象と確認のための2回でよいはず。逆に言えば、理論をしっかり把握していれば、上記の様に、飲む前からそれなりの目途をつけらるので、テイスティングすべきポイントも絞れます。

とはいえ、私自身も体調がすぐれない日や、なんだか集中できない時には、自然と何回もワインを口に含み続けるという「蟻地獄」にハマります。そして思うのは、ワインのブラインドテイスティングというのは、口に含む前に5割がた「勝負あり!」のような気もします。いや、そうであった欲しい。というのは、わたくしの今日この頃の感想、、、です。ちなみにどなたか年寄りの味覚を若返らせる良い方法があったら、是非ご伝授のほどを!