WSO 第二弾 ですが、主にフリーマンのアップデート

本日(10月28日)は、NYを訪問中のフリーマンあきこさんが、拙宅まで足を運んでくださいました。私がサンフランシスコの自宅をたたんで、ニューヨークに戻って以来、二年ぶりの再会。お互いのアップデートと積もる話で、数時間があっという間に過ぎてしまい、残りは次回ということに。

今年のカリフォルニアはひどい気候不順で、質・量ともに天候が大いに影響する2月から4月にかけて大雨が降り、また5月から6月まで降ったり止んだりという全くカリフォルニアらしくない年でした。(とはいえ、ひどい水不足で悩む南カリフォルニアにとっては福音となりました!)夏も涼しく、フリーマンのように海からの影響を受ける冷厳な(正にWest Sonoma Coast)地域では、ブドウの収穫がひと月も遅れてしまい、何かとご苦労があったろうと推察。中でも、一番寒いYuki Vineyardの収穫量は激減し、フリーマン全体としては今年の生産量は通常の5千ケースから、4千5百ケースまで落ちるとのこと。経済的に厳しそう。。。

それでも、Good Newsあり。私たちの共通の友人であり、腕の良い仕事人の赤星君がフリーマンチームに参加したこと。彼は長年グリーンアンドレッドという美しいジンファンデルを作るナパのワイナリーで醸造を担当しており、その腕は折り紙付き。しっかりとアキ子さんの右腕になってきているようで、今後が楽しみです。

もう一つのニュースは、フリーマンとして初めてリースリングを手掛け、今年初ボトルをするとのこと。リースリングを始めた理由は、「Ken もアキ子さんも(勿論わたくしも)このブドウ品種が大好きだから!」

更なるニュースは、最近11エーカーの畑を購入したとのこと。場所的にはテッドレモンのワイナリー、リトライの向こう側の丘。ということは、気候的にも地理的のも素晴らしい場所だと想像できます。もともとは、リンゴ畑だったとのことで、更地にして、土の中をきれいにする必要があり。生産まで5年くらいかかるのでしょうが、その畑の半分はシャルドネ、後の残りの半分ずつ(つまり4分の一づつ)をピノとリースリングという比率になるそう。シャルドネの比率が高いのは、現在の「シャルドネ不足」を解消するためとか。今でもシャルドネの人気は衰えず、色々なワイナリーがシャルドネブドウの争奪戦を行っているよう。

ということで、今回はあっこさんからヒアリングしたフリーマン及びWest Sonoma Coastのアップデートとしました。

 

今更Master of Wineのプログラム?

私が初めてワインの勉強を始めて(これが、50代の後半)2年半後という超短期でマスターオブワインのプログラムに入ってしまった経緯は、ご存知の方も多いと思います。プログラムに入るに際して「ワイン業界で5年の経験があること」という一項は確かにあったのですが、協会の当時の担当者に面談し、「わたしにはそんな時間的な余裕がない」(何しろ、最も年齢の高い受講者でもあったので)と事情を打ち明けたのが功を奏したとも思えないのですが、その時点でワインライター兼ワインコンサルタントという稀有な仕事を始めていましたし、彼らの感想は「このまま世界中のワイン地域やハーベストを取材できれば、受験(=Stage 2)に行きつくまでには、5年に近いキャリアが構築できるし、しかも稀有な経験が積めるから、このまま入学を許可してもよい」とのことでした。

最も、当時のMW機構のチェアーパーソンからも、「できれば、業界での経験と、ワインの深い知識を積んでから改めて入った方が、良くない?」と散々いわれていたのですが、当時の自分は、なんでも人の数倍早い速度で人生の目標を達成してきたから。。。という、言われのない自信もあり、結局なんの知識も経験もないままに、MWのプログラムに入ったのでした。

日本ではワイン業界というものが、未だに存在せず、現在設立中という黎明期。例外的に大橋健さんは、業界のど真ん中(ワイン・酒造業界の数少ないDistributor)におり、日本でMWになるとしたらこの人という立場におりました。何が言いたいかというと、MWというのは、ワイン業界をけん引する人材のためにあるもので、業界外の「素人=つまりわたくしのような」は「お呼びじゃない」のです。

その点、アメリカには確固たるワイン業界が存在します。私の同級生はワインメーカーや、ソムリエ、そして販売網に関わる人ばかりでしたが、その中で私と同じく、まったく業界経験がないけれども高学歴・或いは元プロフェッショナル(Banker, lawyer, doctorみたいな)という人もいました。結論から言うと、理論やキャリアで勝っていたこういう同級生はいまだに誰もMWになっておりません。一緒に理論や試飲グループにいても、まったく遜色がないのに、なぜか試験に受からないのです。ほんとに不思議な現象。。。。

私たち元プロフェッショナル組に共通しているのは、一体なんだったのか?と考えました。模擬試験でも、私を含めて高得点を取れる人種です。私の個人的な結論は、「どうしてもMWなるべき理由がなかったから」翻って「ワイン業界で苦労している人たちはMWというタイトルを得ることにより、より良いキャリアが築ける。そして多分MWになった後のその先も見えているんじゃないか?」

話は変わりますが、自分で満を持して臨んだ2020年の試験。。。はコロナ下で、キャンセル!となりました。この年は、準備万端で自信もそれなりにあったのですが、悪いことに、翌年はオンラインのみのプログラムと聞いて、その時点でこのプログラムに見切りをつけたのです。もともとMWに絶対なりたいとか、成る必要はそこまで感じておらず、では何故そのプログラムにいたかというと、このレベルの勉強・経験が他ではありえないレヴェルだったということだったのです。ちなみにWSETのDiplomaが5というレヴェルだとしたら、MWのStage 1は30、Stage 2つまり4日間の試験を受ける準備のある人は100といっても大げさではありません。MW達がState 2の生徒を前にしてよくいうことは、「君たちは僕たちより、一番理論もテイスティングも特出しているから」という言葉。まあ、そうですよね。あんな死ぬほどつらい受験勉強なんで一旦MWになったら、二度としたくない。(ちなみに知り合いの前マスターオブワインのチェアマンが、数年前にMWの受験を受けたことがあります。結果は、不合格でした!)

まあ、そうこうしているうちにコロナがひと段落した2021年には、カリフォルニアにいる意味がないと判断して、ニューヨークに帰りました。この時点では、これだけ深く幅広いワイン全般の知識と経験を、今度は実地で活かしたい!という思いでいっぱいでした。逆に言うと、MWの勉強は業界外の人にとっては単なる頭だけの知識。まさに、頭でっかちの最たるもので、私の究極のワイン道、「ワインを民主化したい、多くのひとにワインを取り込んだ豊かな人生をあじわってもらいたい}という思いは、業界で働いて初めて生きると思ったのでした。

ちなみに、私がその前に「ワインキャリア」として積み上げてきたものは、自分にとって(多分多くの知識人にとっても)最も簡単な「ワインライター、ワイン講師、及び企業のコンサルタント」という知的職業でした。この仕事は扱うものこそ違っても(私の場合は金融商品)、長年培ってきた「分析力」「コミュニケーションスキル」「発表力」を使っただけですから。誤解を招く言い方だと思うますが、敢えて辛言します。ワイン業界の仕事というのは、立ちっぱなしで賃金の安い業種が主です。それでも「ワインが大好き!」という人たちが、頑張っている世界です。

そして、NYでは素晴らしい店でワインを直接顧客に手渡すという仕事をしてきました。2年近く就業して得た結論は、「ワインを売るのにMWやらMSの資格はいらない、というか邪魔」一番ワインを売るスーパーセールスマンは全くワインに知識がない若者だったり。WSETのDiolomaやソムリエの資格がある販売歴20年の同僚が結論したのは、「ワインを売るのに、ワインの知識はたいして必要ない」ということでした。私がワインをガンガン売れたのは、ワインの知識ではなく、金融の世界からプロのセールスマンだったからでしょう。

それでは、地に足がついた?MS と違い、頭でっかちのMWという資格は一体何の得になるのでしょう?これがこの2年間私を悩ませたテーマでした。知りすぎている。。。これをシェアーできるのは、所詮ワインのトッププロと、一部のワインマニアくらい。。。と思うと情けない気持ちにすらなりました。

先月、マスターワイン協会から、「今年はプログラムに帰ってくる?」という問い合わせに、「わたしは、もう興味ありません」とすげない返事をしたばかり。実際、この持て余した使い道のない知識と経験はどうすればよいのだっ!と、憤慨していたのでした。

そんなある日、2020年から全くMWの勉強をせずにいたので、ふと思ってこの3年の過去問を手に取ってみた瞬間。。。面白いっ!なんとすらすらと流れるように理論展開ができる。それ以上に、質問の意図が、透けたように見える。。。のは、この2年間、それなりに業界のボトムで現実をみたせいかしらん?

とはいえ70歳を目前にした今の自分は、知識がどんなに詰まっていても、いざ4日間の試験になったときに、若者を同じスピードで何百、何千という固有名詞、数字、そして症例をさらさらと思い出せるのか?そして、4年間全くブラインドを拒否してきた身としては(実際、ワインの生産に関わっている人たちは、口に含んでは掃き出し続ける意味のないブラインドゲームを苦々しく思っている人は多いことを知ってください)今更試飲ゲームかあ?

とはいえ、もう一つの意外などんでん返し。先日参加したテイスティングで「このPNは新樽%、アルコール度%、全房発酵%」という自分の間隔が鈍っていないことの意外さに驚いたのでした。

そして、2日間ほど、じっくり自分の心の中を覗いてみた結論。「戻ろう!あの、世界に!」ということで、昨日MW Instituteにその旨伝達。今からすべきことは、そう、楽しむこと!やっぱり試験勉強なんかじゃない、自分のこれまでの知識と経験を更にアウフヘーベンすべく、これから少し余裕をもってMWのプログラムを楽しんでいこうと思いまあす。

 

 

 

West Sonoma Coast Wines NYに参加して No.1

West Sonoma Coastという新しいAVAが昨年5月に誕生した。それまでこの地域は、広大なソノマコーストAVAの一部に甘んじていた。そもそも、このソノマ「コースト」という命名が噴飯物だったのだ。コースト(海岸線)と命名しておきながらも、この巨大AVAは、遠い内陸地まで境界線を伸ばしていたのである。Sunny and hotな内陸地のワインは、どっしりとフルーティー系が多く、本当の(True Coastと呼ばれていた)コーストに近いワイナリーでは、海からの冷厳な気候を反映してエレガントなワインを重視していた。テロワール論者のワイナリーも多いこの地域では、かなり以前からソノマコーストAVA内の海寄りの、つまり「West側」を切り離して「本当のコーストAVA=West Sonoma Coast AVA」を設立するため、努力してきたのである。

地元のゴシップも多々あった。曰く、内陸地には大手で力のあるワイナリーが存在するから、この既存のAVAを分割するのは難しい。

曰く。ソノマコーストという名前がワインのラベルについているだけで、値段にプリミアムがつく。などなど。

前置きが長くなったが、晴れてWest Sonoma Coast AVAとなった地域の生産者には、高品質ワイナリーが並ぶ。このAVA樹立の中心となったFreemanや、Littorai、老舗のFlowers, Hirsch, そして近年プロからも評判の高いFailla, Peayを始め、そうそうたるメンバーなのだ。次回の記事では、今回テイスティングした中から、いくつかのワインを紹介したいと思う。