おいしさを最大限に引き出すために~2017年Shall We Wine? シャルドネ

前売り予約を頂き、お手元の2017年シャルドネが配送済みのお客様のために、このワインのおいしい飲み方をお伝えしようと思います。
まず、大切な一点。
このワインは、アメリカから日本に輸送した後、すぐに宅急便で皆様の元にお届けしました。そのため、輸送中の温度差や、揺れなどで、軽いボトルショックを起こしているかもしれません。できれば、冷暗所(15~20度くらいの温度差のあまりないお部屋)で少しお休みさせてあげてください。冷蔵庫はコルクが乾いてしまうので、あまり長い間の「安置」は避けてください(これは、どのワインにも当てはまります)。数週間程度で落ち着くはずです。

飲むタイミングは、個人的なお好みです。
若いシャブリやミュスカデといったワインをお好みの方なら、今年中から飲み始めても、ご満足いただけると思います。その際には、是非デカンタすることをお勧めします。デカンターがなければ、コルクを抜いて置き、少し空気に触れされたり、或いは1日~1週間コルクを抜いたあと、もう一度栓をして今度は冷蔵庫に入れておけば良いでしょう。使ったコルクは、一度開けると元に戻らないタイプ(後述)なので、お手数ですが写真のようなストッパーがあれば、良いと思います。サランラップでしっかりカヴァーして、輪ゴムで止めておいても大丈夫です。

ちなみに、以下実験済みです。
開けて、デキャンタしてすぐ飲んだ場合 -> 当初は高い酸味を感じます。時間がたつにつれ(数時間という場合もありました)樽香やシュールリーからくる乳製品的な複雑さがでてきます。その後、柑橘類を中心に、果実味が立ち上ってきます。

開けて、数日たった場合 -> フルーツ味と樽から醸し出されるボディーがすぐに感じられるはずです。
開けて、一週間以上たった場合(ただし、しっかり蓋をしておく)-> 人によっては、このくらい「こなれたほうが良い」という感想を持ったようです。酸味が落ち着き、少しマイルドに感じ、微量な酸化による複雑味を好む方も。

食事とのペアリング
若いワインなので、生ガキやシェーブルのチーズなどに合います。レモンを振る代わりに、このワインと合わせてみてください。
また、胡椒香のスパイスがあるので、ちょっと辛めのお料理にも相性がよく、塩焼きのチキン・白身魚に山椒や七味をふったものや、タパス(オリーブ、ピミエント・ピーマンの塩焼き、生ハム)などにもよく合いました。

寝かしたい場合
個人的には、このワインは5~10年寝かしてから飲みたいスタイルでもあります。pHが低く(=酸味が高く)果実の凝縮もあるので、瓶熟成させた場合、蜂蜜のニュアンスや果実の変化(今はレモンなど柑橘類が主流ですが、アプリコットやピーチなど)が楽しめるのではないかと期待しております。この場合は、冷蔵庫ではなく、常温(15~20度くらい)が確保できる場所が好ましいです。

ご自宅にワインセラーの備えがない方が一般的なので、このヴィンテージはできればすべて売り切らずに、一部をこちらで(輸入元で)瓶熟成して改めて売り出すということも考えてはおります。

3~12本購入くださった方は、年ごとのワインの変化を楽しんでいただけたらと思います。

11月と12月に日本でのイヴェントでこのワインを試飲・購入いただけます。

11月26日 名古屋国際ホテル 2時~4時 ワイン後援会席上 及び懇親会 5時より
12月4日 キャプランワインアカデミー 2階 ワインサロン 6時半~9時
また、輸入元中井ヴィンヤードの購入ウェブサイトでは直接販売を11月より開始いたします。尚、Shall We Wine? Websiteでは10月31日(アメリカ時間=11月1日日本時間)まで、予約販売特別価格6,500円にて承り、その後は定価7,500円となりますことを、ご了解ください。

*注:ワインのコルクについて。環境にやさしいというテーマのワインで、瓶とコルクを軽量化。(CO2の軽減化)但しこのコルクは、一度抜くと弾力を失うので、戻すのが難しいという難点があります。(本当は、スクリューキャップにしたかったのですが、日本側の反対に押し切られました、、、、(涙)。

11 月14日『英語でワインを語る力』をつける講座

現在登録されている受講者のプロフィールを鑑み、講義は日本語のワイン知識をベースに、英語での『コニュニケーションスキル』を向上していくことに力点をおきます。以下、ざっと要点をご紹介します。

1)語彙力

論理的で的確なワインの表現手法を学びます。ワインの酸味やタンニンは、品種により『形容詞』などが異なります。単に高低(酸味が高い、低いー>high acid, M+ tanninなどの)だけでは、思い込みとみなされることもあります。誰が聞いても、意図が伝わる語彙力を築いていきましょう。例:refreshing, fresh, crisp, tart, sharp, persisting, mouth-watering, searing acidity などはどの品種に使うか?

2)構成力 = 英語と日本語の決定的な違い

発想が逆とも言える日本語と英語のカルチャーは、英語が流暢な日本人の英語でも、伝わりにくいのです。まずは、論理的に何を伝えたいのか、という構成をしっかり考える練習をします。その上で、手短な文章や言葉で伝える能力を育成しましょう。

例題として、『海外のワイナリーにアポイントメントを入れる依頼書の書き方』『自分の簡単な紹介文』『ブドウ栽培、醸造、ワインビジネスなど全般的なテクニカルな質問書のポイント』など、実践に役立つ作文を行います。その際に日本人の陥りがちなエラーに照準を当て、考え方のズレや習慣の違いを含めて、添削していきます。

3)知識と表現の違い

世界のワイン業界の主流は、英語圏にあります。日本で頻繁に使われる『ヴァンナチュール』『シェフソムリエ』などは仏語(や原語)の日本語訳を英語にした場合、定義も発音も違ったものになってしまいます。英語でワインを語る場合、日本語からの英訳では、意図が変わってしまうことも多々あります。

ちなみに、以下の英語の文章は、どこがおかしいのでしょうか?問題は語学力に留まらず、発想や質問者の知識も疑ってみてください。

What is the average size of your vineyard?

How old are your “old vines”?

また、誰かがこんな事を言ったとして、あなたはどうやって更に相手に質問をしますか?

“We don’t spray chemicals that much.  We follow organic viticulture pretty much.”

“Our wine is natural”

“The acidity of this wine is very high and fresh.  This pairs well with seafood”

当日は、いろいろな角度から英語でのワイン論議を行います。単に英語でワインを習得したいという方だけではなく、日米・英のワイン(ビジネス)に対する発想の違いなどを知りたい方も歓迎します。質疑応答は日本語で行います。

 

ワインライターの道中は危険がいっぱい

ワインライターという仕事柄、単独で世界中を「放浪」している。 土地勘のない国で、住所もいい加減なワイナリーや畑を、GPSだけを頼りに探す。ヨーロッパの田舎は、丘が多くて道幅が極端に狭く、切り立った崖やら行き止まりの道にGPSが誘導することがままあり、Uターンができず立ち往生する。狭い山の一本道を登っている途中でどっぷりと日が暮れてしまい、何も見えなくなったこともある。しかも電波が通じず、電話もGPSも使えない。この時は、泣きたくなった。今回も日の暮れたイタリアの片田舎で、目の前の丘の上に町が見えているのに、どこにも車が入れそうな舗装道路がなく、焦った。しかもあぜ道で、10センチハンドルを切りそこねると、タイヤが水路の溝にはまってしまうという恐怖のおまけ付きだ。われながら、よくこんなことをやると苦笑してしまった。

 

当然、車をぶつけたり、事故ったりすることもある。米国内であれば、レンタカーをする際に、保険を購入することはない。クレジットカード会社が自動的に車両保険をかけてくれるからだ。今までは、海外でも大抵これで賄ってきたが、今回イタリアで接触事故を起こした際の手続きが面倒で、それ以降は危ない地域(治安ではない)に行く場合は、保険をかけることにした。スペインでレンタカーをした際に、「車が盗まれても、全壊しても全く賠償責任なし」という保険に入ってみた。確か35ユーロくらいだったが、ものすごく気が楽になったのを覚えている。

とはいえ、海外、特に治安が年々悪化しているヨーロッパでは、盗難がいちばんの頭痛の種だ。パリのスリはあまりにもあざやかで、私も含めて知り合いの多くが、シャルルドゴール空港から市内に入る地下鉄で、 財布やコンピューターを抜かれている。10月のヨーロッパ視察では、バルセロナで被害にあった。手口はこうだ。ホテルのロビーのそばに駐車したレンタカーに乗り込んだ瞬間、窓をノックされた。きちんとした身なりの男性が、身振り手振りで後輪を指して何か言っている。一旦車から降りてみると、右後ろのタイヤの空気が漏れているといいたいらしい。一緒にしゃがみ込んでタイヤをチェックしたら、空気入れのキャップが取れていた。それを戻していると、その男性は「では」という感じで、ゆっくりと目の前をまっすぐ離れて行った。1分後に、運転席(車の左前)に戻ると、助手席に置い田はずのバッグが無い! もう一人の相方が、どこかに隠れていて、そっとドアを開けて、盗んで行ったらしい。とはいえ、車を乗り込む際は、必ず周りを見回して、誰もいないのを確認する習慣がある。にもかかわらず、全く音も気配もしなかった。鮮やかとしか言いようがない。

しかし困った。盗まれたバッグには、パスポート、グリーンカード、運転免許証などのIDと、全財産(キャッシュ、クレジットカード)、そして携帯電話が入っていた。その瞬間から、無国籍の一文無しになったしまった。早速警察に行き、紛失届けを出した。これは必須だ。スリはキャッシュと換金性の高いグッズ(携帯やコンピューターなど)を抜いた後、残りを捨てる習慣がある。この場合、警察から連絡が入るし、不正にチャージされたお金も、ポリスレポートをカード会社に提出すれば済む。案の定、3日後に私のバッグは、最寄りのガソリンスタンドから発見され、パスポートやクレジットカードの一部は無事に返ってきた。今回、痛感したのは、アメリカンイクスプレスの素晴らしさだ。ヴィザやマスターカードなどとは比べ物にならない対応の速さときめの細かいサービスで、2日でアメリカからスペインまで新しいカードを送ってきてくれた。

最悪なのは、日本のパスポート再発行の手続きだった。 発行をするに当たって「まず日本の家族(いない場合は本邦の弁護士を雇う)が、領事館宛に戸籍抄本か謄本を『郵送』することが先決」だという。領事館がこれを受領しないと、 パスポートの発行手続きを始められないのだそうだ。この時も、さっさと国籍をアメリカに変えておくべきだったと心から後悔した。

 

とはいえ、根っからのポジ思考で、 ヨーロッパでの視察(仕事)ができなくなったと悟った瞬間に、 頭をバケーションモード切り替えた。考えたら、ここ5年ほど、純粋な休暇なんて、全くしていなかった。私を助けにキャッシュを持ってきてくれたスペイン在住の友人と、連日ディナーを楽しみ、交流を深められたのは幸いであった。感謝。

 

「マスター・オブ・ワインへの道」ー 執筆開始にあたって

マスター・オブ・ワイン(MW)という雲の上に存在するワインの神様のような資格が在ると知ったのは、ワインの勉強を本格的に始めてから。それまでは、マスター・ソムリエ(MS)が業界のトップだと思っていて、実際欧米で最も権威のあるCourt of Master Sommeliers(ソムリエ協会)というイギリスの機関が、世界で初めてカリフォルニアで開講した「3ヶ月ソムリエ短期集中受験コース」に入学したのでした。この前代未聞の難問コースは、通常であれば5年間の実技と理論を勉強してから受ける、ソムリエレヴェル2という資格を何と3ヶ月で受験するというもの。

生来のワイン好きが高じて、現役のニューヨーク金融時代(80年代から01年まで)には、わざわざナパヴァレーに通ったほど。9.11を機に、業界からリタイアしてから、一生涯追求してもまだ余り在る「何か」を模索していました。そして、自分の特技(語学力、コミュニケーションスキル)とパッション(ワイン、旅、食と異文化)を最大に活かせる今のキャリアーに辿り着いたわけです。

3ヶ月の受講後、ソムリエ資格2(正式なバッジを得て、ミッシェラン星付きなどの格式のあるレストランに勤めるソムリエが典型)を取得。詰め込み暗記と典型ワインの試飲一辺倒だったソムリエ受験勉強で身につけたワインの「基礎知識」に自信を得たものの、なにかしらの物足りなさを感じておりました。もっと奥行きの深い、幅広いワインの知識が欲しい、、、。ブドウ栽培からワイン醸造に到る複雑な『農芸化学』と『醸造技術』を学び、世界に広がるワイン地域の実態(ワイン法、ブドウ/ワインのカテゴリーやビジネス・プラクティスなど)を認識し、それらの 国際ワイン交易を司る仕組みを知りたい。

更には、ソムリエのトレーニングで身につけたワインの表現力だけでは、何か忘れ物をしたような気になります。例えば、そのワインの風味が「収穫したばかりのフレッシュなピンクグレープ・フルーツ」なのか、それとも「イエロー・グレープフルーツの皮の風味」なのかに心を砕いても、大して意味がないように感じたのです。

私が知りたかったのは、柑橘類の風味はどこからくるのか?そのブドウ品種独特のものなのか、気候や土壌が影響しているのか?作り手の手腕が関わってくるのか?という部分。そして、目隠し試飲をするのは、ワインや、どのブドウの名前をあてるゲームではなく、品種、地域、製造法も含めて、そのグラスの中から語りかけて来る「何か」を解析することだと思ったのです。正に、そういう全ての知識を体現する存在として、マスター・オブ・ワインに注目したのでした。

そこで早速、ロンドンのInstitute of Masters of Wine(マスターワイン本部)を訪問。いかにして「最短距離で」MWになれるのか?という図々しくも大胆な質問をしたのでした。そしてそのアドヴァイス通り、3年という短い期間で応募資格を得て、本年度(2014)のMWプログラムに受け入れられました。これから数年の間に数々の試験とチャレンジがありますが、そこに至る過程を公開することによって、MWを目指す後進のすこしでも役に立てばと願います。

公開するということは、成功だけではなく失敗談も多々ある訳で、それらも含めて一緒に経験して行って下されば、幸いです。MWという狭き門は、私の尊敬する先達をも拒否して、なかなか通過することが難しい道です。そのうちの一人で、私の先生に当たるワインメーカーが、最近「私のMWへの道は本年を持って閉ざされました」と題したメッセージをソーシャルメディア に公開しました。

「長年にわたってMWの試験を受けて来ましたが、本年が最後のチャンスでした。残念ながら期限切れとなり、私のMWへの道は閉ざされましたが、そこに至るまでに学んだ物は大きい」から始まるメッセージで、読んでいて感動しました。そこには、「失敗したから恥ずかしい」という小さな自尊心の欠片もなく、堂々とその結果を公表する。なんという大きな人間だろうと思いました。

そしてMWにしても、MSにしても「この道は一人では実現しない。皆で分け合って進むのだ」という同士の絆とでもいうスピリッツを改めて感じました。わたしも彼女のメッセージを読んで、今から始まったばかりのMWへの道のりを、皆さんとシェアーしてきます。これからMW或はMSという業界最高峰を目指す方や、資格をとらずともワインを愛し、すこしでもワインの世界の深さを学びたいという方の、ほんのすこしのお役に立てばと願います。  (2014.12.20サンフランシスコの自宅にて)

 

マスターオブワインロンドン本部

マスターオブワインへの道のり(2)

(長らくご無沙汰していた報告を、アップデートしますIMG_9816

Institute of Mater of Wine(IMW)よりプログラムへの受け入れを許容された(受験の合格通知)のが、昨年(2014年)の10月下旬。その時点で、翌2015年6月の第一試験(First Year Assessmentと呼ばれる)までの年間(実働は、8ヶ月間)受講料($4,850ほど)を一括払いし、世界3拠点で展開されるMWのプログラム(ヨーロッパ、アメリカ、オーストロアジア=オセオニア+アジア)のひとつを選びます。当方は、一年目は北米プログラムに所属することにしました。本拠地は自宅の在るサンフランシスコ、及びナパなので、非常に便利であり、6月の試験日には、なんと歩いて試験場まで行けるといる素晴らしい地の利です。

 

(14年9月。当時IMW チェアマンだったJean-Michel Valette MWに、友人と、MWに応募する旨を報告)

その後、すぐに世界各地で開催されるマスタークラス(MW主導で行われる一日のコース)や視察旅行、一週間監禁される地獄の?泊まり込み合宿(Residential seminar)など出席する合間に、世界各地のMWや受験生(主に同じ時期に入った一年生)のネットワークを構築し、6月8日の試験日まで切磋琢磨して来ました。

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15年に入ってからは、ヨーロッパ、オーストラリアの視察や取材の合間に、国際ワインライター総会やカリフォルニア在の醸造家、ブドウ農家の取材で、数週間ずつ留守にすることが多く、試験の前の一ヶ月は自宅監禁の状態を作り、一日12時間から15時間勉強して、何とか遅れを取り戻そうとラッシュ。お陰で?、知らない間に十円玉ハゲができていたり(美容院でヘアカットをしている時に、美容師に指摘されるまで気がつかなかった!)、体重が増え続けて気がついたらデブになって?いたりと、まったく頂けない日常。

(15年3月 MW一年生向けボルドー修学旅行にて。4人とも北米のプログラムに所属していた、同級生とボルドー市内で乾杯。)

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一年目の試験は6月8日の朝の9時に世界3箇所で一斉に行われました。ありがたいことに(というか、計画通り)試験の会場は、サンフランシスコの自宅から歩いて10分にある、コンスタレーション ブランド(写真左)というワインの大手企業で開催されました。他にも一人市内の同級生がいましたが、他は全て全米、カナダ、アジアからの受験生。時差など大変だったことでしょう。

会場に早めに到着し、持参した自分専用のワイングラスを12個、指定された受験席にセットアップします。ちなみに、MWのプログラムに入って直ぐに悩んだのが、このグラス選び。MWの試験(一年目のレヴェル1試験と、合格した場合に、数年以内に受けるべき最終のレヴェル2試験)は勿論、世界中で開催されるMWの合宿やクラスにも、専用のグラスの持参が義務づけられます。ワインはとてもデリケートなしろもので、グラスによって味が変わります。MWになろうと決めた時点で、一生使うグラスウェアを決めるのが常識とされ、自宅でもこうして決めたグラス以外でワインを利き酒しないと決めています。そして選んだのは、一番典型的なリーデルの汎用グラス。理由はシンプル。これがワイン審査に一番使われるグラスであり、世界中どこに行っても、自分のグラスが破損したり、持参出来なかった場合でも、現地調達できそうだから。後で知ったのですが、同級生の中でもかなり上質で大振りのグラスを選んだ場合は、逆にワインの味が引き立ちすぎて(おいしくなりすぎて)、質の悪いワインでも美味に感じるので、利き酒評価には良くないとのことでした。

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一年目の試験は、午前中がPractical examination と呼ばれるワインの目隠し審査。これは、12本のワイン(赤、ピンク、白、泡、酒精強化酒なんでもあり)を利き酒しながら、2時間15分以内に全てのワインに関する質問に、ミニ論文方式で筆記します。例えば、ブドウ品種と生産地についての記述を、醸造と気候について分析しながら結論づけるというのが、基本的な質問ですが、これは飽くまでも自分で利き酒した風味に基づいての理論でなければなりません。また、質問の数も一つのワインに付き3〜4種もあるので、ワイン一つにつき10分程度で、試飲、分析、記述と結論を完結せねばならず、悠長に試飲ノートを書いている暇もありません。

(左が典型的な試験用グラス)

短いランチブレークの後は、理論の試験。一題目は全員回答義務があり、2題目は2つの質問から好きな方を選べる方式。2題を2時間で、小論文に仕上げますが、大切なのは栽培、醸造、ワイン法などの質問であれば、きっちりと数字と実例を各所に詳細に盛り込むこと、例えば今回義務づけられた第一問目は、「世界各地で生産される上質のワインにつき、その基になるブドウが栽培される地域において、ブドウの成長期における「水の影響」について、考察、結論づけよ」というものがあります。当然、「上質ワイン」「成長期」「水の管理」といったキーワードは、イントロの部分で定義をする必要がありますが、本文中多くの実例を上げなければなりません。それも、一つの例に付き、3つ実例を挙げることが好ましいとされます。まずは、地場(当方であれば、カリフォルニア)の例、それから必ずヨーロッパ、そしてもう一つの新世界(カリフォルニアに対して期待される例は、オーストラリアやニュージーランド)の3カ所の例を挙げるという風に。

実を言うと、こういう実例を視察、記録する為にこの数年世界中のワイン産地を廻っていたといっても良い訳で、膨大な資料をコンピューターに集めなさい!というMWのアドヴァイスのもと、すこしづつ着手していた矢先の試験でした。実例では、例えばブルゴーニュのロマネコンチの畑ではオベール ド ヴィレーヌが、、、という記述ではアバウト過ぎてアウトで、DRCのどの畑(例えばバイオダイナミック農法で3.5ヘクタールのリシュブール畑で耕しているピノノワールはという具合に)で、誰が(実際にDRCの畑を管理する耕作人)という固有名詞をしっかりと記述しなければなりません。

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さて、試験を終えた後には感想を、同級生同士で話し合いました。大部分は、「恐れていた理論より、プラクティカルの方が厳しかった!落としたかもしれない、、、」と心配する向きが大勢を占めました。自分の感覚では、「落ちてはいないだろう。理論も試飲も、まず、大丈夫」という感想でしたが、勿論7月の中旬まで正式なお沙汰があるまでは、安心出来ません。しかしながら、受験者全てに共通したのは、『燃え尽き症候群』。私も試験の後、3週間以上はワインアレルギーで、全く飲む気が起きず、もっぱらビールやら日本酒を飲んでいました。また、何十冊と読んできたワインの教科書は、その後手をつけられず、居間に置きっぱなし状態、、、。

(もう一人の日本人受験者で、一緒に合格した安田まりちゃんと、試験の夜に「お疲れさまディナー」)

そして、7月17日は結果発表日。結果を発信するロンドンとは時差があるので、朝起きだしてメールを見たら、「合格」通知。正直、喜んでよいのか、これから10倍は厳しくなるであろう更なる受験勉強の日々を、憂いて良いやら。祝杯をあげる気分にもなれず、、、。(とはいえ、友人達がみんなとっても喜んでくれて、お祝いを受けました!)

ちなみに、ほんちゃんの2次試験は、丸4日間に渡る、それはそれは身を削るような試験となります。

 

カリフォルニアで立ち上げた日本人女性のワインブランドが進化しました!

昨年までWisteriawineのウェブサイトをお借りして、ボランティアとして記事を書いて参りました。とはいえ、先方の顧問をリタイアしたのは既に数年前。現在では、ウィステリア=Fセラーズは、新しいアドアイザーを迎え、新たな業務展開を企画しています。近々、ウィステリアのウェブサイトも更新され、ポスト斎藤ゆきの「新生ウィステリア」となって飛翔していくはずです。引き続き、応援のほど、お願い致します。

本年からは斎藤ゆきの正式なウェブサイト、Shallwewine.com.co/blogにワインレポートなどを集約しました。過去のウィステリアワインで書いた記事も読めますが、願わくば、これからの新しい展開に注目してくださればと思います。

ちなみに、昨年書いた「日本女性が立ち上げたワインブランド」の記事につき、その後の展開をアップデートいたします。特に大きく変わったのは、ワインメークの部分です。当初3人でイメージした『あくまでカリフォルニアらしく、しかも酸とフルーツのバランスの良いエレガント系(ナデシコ?)に仕立てたいこと。』はそのまま変わりません。ありがたいことに、醸造上の過程で、関わる日本人が増えました。現地の醸造現場で実際にワインの製造に関わってくれたのは、ナパのクラッシュパッドで指揮をとる経験豊かな日本人男性Toshi Wakayamaと彼の率いる醸造チーム。また、ブドウ栽培の現場では、オーナーのAki Nakai(貴子さんのご主人)と現場のブドウ園チームの大きなお力添え無くしては、とてもできなかったプロジェクトです。

というわけで、「日本人女性ナデシコワイン」と名乗り続けるのは、?と感じていました。更に、ワインメーキングの現場では、複数の意見が交錯しては生もののワイン造りに時間がかかりすぎる、、、という事情もあり、そういう局面での判断は斎藤ゆきのexecutive decisionの色合いが強いワインとなりました。そこで、関わった人たちと話し合い、最終的には『カリフォルニア在住日本人(男女)プロのコラボによる』ワインという認識となりました。そして、ブランディングとマーケッティングを当初から任されていた私が、皆で盛り立てていくネットワークプロジェクトとして、Shall We Wine?を立ち上げ、このワインはそのプロジェクトの第一ヴィンテージとして送り出すことができました。こんなにも多くの人たちが期待を持って関わってくれ、しかもまだできていないワインを待ち遠しく応援してくれるみなさまがいた。このワインは奇跡だと、私たちは思っています。

予約購入サイトのアップデート

 

Shall We Wine? 2017 Chardonnayの販売につき、アップデートいたします。使われている機器によって、生年月日の入力が遅いとのご指摘を受け、早速入力エンジンを向上しました。また、11月1日より日本での発売に先立ち、10月30日まで当サイトで予約いただいた方には、特別予約購入価格 6.500円でご案内しております。

 

11月1日以降は、酒造販売店からも販売が開始されます。同じ時期から、当サイトでの価格は正式価格7,500円となります。ご了承ください。

アメリカにて、日本ワインを思う

レポートした通り、日本にはワイン法が存在しない。日本酒という古来の文化があっても、ワインという新しい飲み物は、まだ日本文化に根を下ろしているとは言い難い。日本でワインを醸造する場合、ワインメーキングは日本酒の酒造法に基づいて管理される。その結果、欧米で当たり前の材料やテクノロジーも、酒の現場で使われていなければ、適用できない。

さらに問題なのが、「日本ワイン」の法的規定の欠如だ。市場に出回っている8割以上の「日本製」ワインは、大手酒造会社(サントリーやキリンなど)が、チリやオーストラリアなどから格安で輸入した濃縮ブドウジュースをワインに加工して、千円以内で売っているものがほとんど。

「これではいけない」と気がついたのか、或いは、オリンピック景気に備えた外国人目当ての商戦なのか、政府がやっと重い腰を上げた。日本ワイン を、「国産ぶどうのみを原料とし、日本国内で製造された果実酒」と定義し、2018年10月30日から法的に適用する。やっと日本も、ワインという 西洋で確立された歴史的飲み物を、我が国の一部として認知したということなのだろうか。

 

とはいえ、現場でぶどう栽培やワイン造りに関わっている方々の苦労は、続いている。まず、ワイン用ぶどうの栽培者が育っていない。 皮が薄く、タネなしで、実が大きいアメリカ出身の生食用ぶどうなどでは、決して良いワインは作れない。それは、植民地時代から、ヨーロッパの移民が、アメリカの地場ぶどうでワインを作ろうとしては、諦めてきた歴史が証明している。しかし日本ではこの生食用のぶどうに高値がついてきた。農家としては、得体の知れない「ワイン用のヨーロッパぶどう」など、 作りたくないというのが本音だ。結果、売れ残った生食用ぶどうを潰して、とりあえず「飲める」ワインを作ってきた悪しき伝統が続いている。

 

今回の取材で出会ったのは、本格的にワイングレープの栽培に取り組む人たちだ。それはフランスやアメリカでワイン造りを学んだ帰国組や、代々のぶどう農家の後継者がワイン造りに目覚めてしまったケース。大企業も広大な自社畑を使って、いろいろなトライアルを行なっている。とはいえ、老齢化が進むぶどう農家は離農を考え始め、逆に簡単にワイン造りをしたいと夢見る若者が、ワインメーカーを目指し始める。こうして、ぶどう不足はますます深刻になる。そして、優良なぶどうからでしか、美しいワインは作れないという当たり前の事実。

 

前号では、日本のナチュラルワイン人気を特集したが、今の日本は「日本ワインブーム」だ。3千5百円も出せば、海外の高品質のワインを購入できるとわかっていても、応援する心情で、日本のワイン(甲州・マスカットベーリーAや、生食用アメリカぶどう=デラウェア、コンコルドで作るワインなど)を買っ

てあげる。実際、膨大なインタビューを通して確信したことは、誰も日本のワインがとても美味しいとは思っていない事実だ。でも「あんなに頑張っているから、応援したい」という。

 

今では筆者も、日本人が日本のワインを応援したいという心情は理解

できる。なぜなら、ワイン造りに全く向かない高温多湿、大雨の風土にもかかわらず、本当に熱心にぶどうやワイン作りを研究し、励む姿を見てきたからだ。とはいえ、ビジネスの視点で見た場合、日本だけで通じる「甘え」が、生産者にも消費者にもある。要は「身内びいき」ということで、国内だけで通じても、海外の厳しい「自由競争」市場では、生き抜いていけないということ。今の日本ワインの質と値段で

は、まだまだ海外では通用しない。そういうアドヴァイスを会う人ごとに

してきた。と同時に、日本ワインの質をうんと上げて、来日する外国人に胸を張って振る舞える酒に成長させて欲しい。そして、その中の一部でも、海外進出に値しうるブランドができたら、、、、と願ってやまない。

 

何故MSではなくMWを選んだのか

今年の前半までは、Court of Master Sommeliers(MS)のマスター・ソムリエ資格を受験する比較的若いグループに所属し、週一度の目隠し試飲に参加しておりました。私自身はマスター・オブ・ワイン(MW)を目指しておりますが、Courtのソムリエ資格も持っており、食の中心のSFには、ソムリエ資格を目指す人が比較的多く、MS受験グループのほうが比較的見つけ易い訳です。

とはいえ、この秋晴れてInstitute of Masters of Wineの正式通知を受け、MWの受験一年生となりました。そのつてで、やっとSF近郊でMWを目指す人をみつけ(米国でMWを目指す人はMSに比べると、希少)週に一度集まってMW方式の試飲練習会を開いています。

自宅での試飲セットアップ

(自宅で目隠し試飲のセットアップ)

マスター・ソムリエとマスター・オブ・ワインの試験は、かなり趣が異なります。それは、レストランで給仕をするソムリエという仕事柄、ブラインド(目隠し)試飲の試験も、いわゆる短い理論といわれる試験も、全て口頭で行います。試験に出されるワインは、「クラシック」で「典型的(ベンチマーク)」と評されるものが主で、例えばカベルネなら、ナパやボルドーの新樽を使ったどっしりしたものであるとか、ソービニョン・ブランであれば、樽を使わずフレッシュに仕上げたロワールのサンセールやニュージー・ランドのマールボローといった具合。試飲試験では、ワインの香りや味を表現する的確な力や、ワインの種類を当てることに重きを置いているきらいがあります。それは、お客様にワインを売るという仕事柄、当然の流れと言えるでしょう。

反して、ワインメーカーや、アカデミックなバックグラウンドをもつ業界人が主な受験生であるマスター・オブ・ワインの試験は、全て論文形式の筆記試験。目隠し試飲は、12種類のワインを3日間にわたって(理論は4日間)おこなわれますが、出題されるワインは典型的なワインばかりではなく、普通の人はあまり飲んだことの無い品種や国のもの、或は同じカベルネでもアルゼンチンやニュージー・ランドの新興国のものが混ざります。これを試飲した上で、どんな製法で作られたワインか、どこの国のどの品種のワインか、そしてその質と市場価値などを、論理的に、そして飽くまで目の前のグラスから得た情報だけを頼りに、理論展開して行きます。

そんな訳で、一回の勉強会にはかなり時間をとられます。スピードを重んじるソムリエの勉強会は、一つのワインに4分が目処の(その場で飲みながら答える)タイムリミット方式で、そのあと出席者の討論が5分程、計10分から15分あれば次のワインにすすめます。翻ってMWの勉強会は、まず12種類のワインを各自が試飲しながら、きちんと文章に落とします。このタイムリミットが2時間15分。その後、参加者で分析と討論を行うので、最低3時間半はかかり、大変な時間(と経費、毎回12本の違うワインを用意する)をコミットせねばなりません。

しかも対象となるワインは、赤白ロゼの他に、スパークリング・ワインとデザート・ワイン( ポルト、シェリー、マデラの酒精強化酒に、ソーテルネ、トカイなどの貴腐ワインなど)という守備範囲の広さ。一人で勉強するのは、ほぼ不可能です。ですから、何年(或は十何年)もかかるMSやMW受験には「同士(study buddy)」の存在は不可欠。ドキュメンタリー映画のソムSomm(ソムリエの略称で、MSを目指す人達が受験するまでのグループを追ったもの)がまさにその受験過程を追っていますが、スタディグループは全員が合格するまで、何年でも励まし合って、切磋琢磨を続けていくというシステムです。

私が最初に取ったワインの資格は、 ソムリエ。受験の前日に先生(マスター・ソムリエ)に言われた言葉が、今でも忘れられません。

「試験なんで、落ちることもあれば、受かることもある。だから、不合格でどんなに落ち込んでいても、友人(study buddy)の合格をきちんと笑顔で祝ってあげる!大切なことは、『いつ』受かるかではなくて、いつか『受かる』ことさ。」(下はソムリエの資格試験を司るマスターソムリエ教授陣)

ソムリエスクールの教授陣MS